珠洲を歩くと、いくつもの景色に出会います。
たくさん並ぶ仮設住宅。家が取り壊されたあとの、広い更地。
地震から3年。かつて壊れた家が並んでいた場所は、ほとんど更地に変わってきました。それでも、こんな疑問を持つ方は多いはずです。「どうして、ここまで時間がかかったの?」「この土地は、これからどうなるの?」
その景色の一つひとつには、別々の法律と、家族の話し合いが関わっています。リブート珠洲の防災研修プログラムでは、その関係をまとめた資料「災害法制を時間軸で読む」をお渡ししています。この記事では、資料の特長と、現地で学ぶ意味をご紹介します。
「非常持ち出し袋」だけでは、足りないことがある
防災というと、水や食料、懐中電灯を思い浮かべますよね。もちろん大切です。
でも、被災した方々の話を聞くと、本当に困るのは地震のあとに来る問題でした。
- 家の片づけや解体は、誰が決めるのか
- お金の助けは、どれくらい出るのか
- 家族の中で、意見が分かれたらどうするのか
この資料は、こうした「あとから来る問題」に備えるためのレポートです。
「災害への備えとは、「災害が起きたあと、自分は何を決められて、何を決められないのか」を事前に知っておくことである。」
法律を「時間」と「景色」で整理しました
災害に関わる法律は、50を超えます。名前を並べても、とても覚えられません。そこでこの資料では、法律を「いつ」「何が見えるか」で4つに分けています。
| 時間 | 現地で見える景色 | 決める人 |
|---|---|---|
| 発災から24時間 | 寸断された道路、避難所の体育館 | 現場にいる人たち |
| 1週間 | 仮設住宅、国が代わりに行う復旧工事 | 国(閣議決定) |
| 1か月後 | 再開した店と、閉じたままの店 | お金を扱う国や金融機関 |
| 3年後 | 家が取り壊されたあとの更地 | 被災した本人と、その親族 |
表の右列を見てください。時間がたつほど、決める人は国から個人へと移っていきます。
地震の直後は、国も自治体も全力で動きます。けれど数年後、その土地や家をどうするか決めるのは、住んでいた本人とご家族です。資料では、こうした時間軸の流れによる法律を説明しています。
被災した人の目線で読むと、こんなことがわかります
仮設住宅ができるまで、1年かかった
仮設住宅は数日でできる、というイメージがあるかもしれません。ところが石川県では、建設型の仮設住宅6,882戸がそろったのは2024年12月23日でした。発災から、およそ1年後です。
300万円では、家は建たない
家を失った人への支援金は、最大300万円です。一方、能登で家を新しく建てると、2,000万円を超えることも珍しくありません。
しかも、それだけではありません。資料では、次の3つが同時に重なっていると説明しています。
- お年寄りが多く、住宅ローンを組みにくい
- 前の家のローンが残る、「二重ローン」の問題がある
- 家を建てる職人さんが足りない
更地を見て「復興が遅い」と言うのは簡単ですが、原因はひとつではないのです。
「無料で壊せる家」に、時間がかかった
もうひとつ考えさせられるのが、公費解体(国のお金で家を壊す仕組み)です。
費用はかからないのに、なぜ時間がかかったのか。原則として、家の持ち主全員の同意が必要だからです。
古い家では、名義がまだ祖父母や曾祖父母のままのことがあります。相続する人が全国に十数人いて、連絡がつかない場合もあります。たった一人の同意が取れないだけで、手続きが止まってしまうのです。
そこで国は、法律を変える代わりに、ルールの運用を変えました。2024年5月に環境省と法務省が出した通知で、書類を出せば申請できる道が開かれたのです。ただし、あとで他の相続人から異議が出たときは、申請した本人が解決しなければなりません。
更地になったあとも、問いは続く
家が解体されて更地になれば、すべて終わりではありません。むしろ、そこから新しい問いが始まります。
- この土地の持ち主は誰か。名義は今も祖父母のままではないか
- 誰も住んでいない家は、これからどうするのか
- 壊れていない家は、相続すべきか、手放すべきか
無傷の家が、かえって扱いにくくなることもあります。資料はここから、こんな結論を導きます。
「防災の最終防衛線は、非常持ち出し袋ではなく、登記簿と、家族の合意形成です。」
この資料の3つの特長
1. 珠洲で実際に起きたことが書かれている
教科書的な説明ではなく、現地の景色と法律が結びついています。だから、読んだあとに景色の見え方が変わります。
2. 「考える問い」と「ワークシート」がついている
「300万円で家は建つか」「この更地の持ち主は誰か」といった問いが並びます。最後の3問に書き込めば、その日のうちに自分の家族の話として考えられます。
3. 家に持ち帰って、何度も読み返せる
巻末には、能登半島地震に使われた法律の一覧があります。困ったときの「調べる入口」になります。
奥能登豪雨のあとに見えてきた、新しい課題
資料には、9月の奥能登豪雨についても書かれています。地震から9か月後に、同じ世帯が2度被災した出来事です。
「支援金は二重にもらえるのか」「仮設住宅が浸水したらどうなるのか」。こうした問いに、はっきり答えられる制度は、まだ十分ではありません。
日本の災害法制は、「災害は1回きり」という前提で作られてきました。これからは、続けて起きる災害への備えも考える必要があります。資料は、これを大切な学びとして取り上げています。
現地で学ぶから、「自分のこと」になる
資料は、読むだけでも役に立ちます。でも、研修に参加する意味は、その資料を現地の景色の前で読めることです。
仮設住宅団地の前で、「なぜ1年かかったのか」を聞く
更地の前で、「この土地の持ち主は誰か」を考える
誰も住んでいない家の前で、「もし自分の実家だったら」と想像する
資料に書かれた一行が、「あの場所のことだ」とつながる瞬間があります。参加された方には、ぜひこれを体験していただきたいのです。
そして、この学びは特別な人だけのものではありません。実家の名義を確認する、家族で話し合う。そんな小さな一歩が、いざというときの大きな備えになります。
資料の続きは、現地で
この記事で紹介したのは、資料のほんの一部です。第1層から第4層までの詳しい内容や、ワークシート、法律一覧は、研修プログラムの中でお渡しし、ポイントをお話しします。「資料の続きを知りたい」「生きた現場で学びたい」と思われた方は、ぜひリブート珠洲の防災研修プログラムにご参加ください。