リブート通信

能登半島地震の復興が進まない理由とは?

地理的課題と日本の未来へのヒント

復興支援ツアーに参加された方からよく聞かれる言葉のひとつが、「復興が進んでいませんね」という感想です。では、なぜ復興が遅れているのでしょうか?
その大きな要因のひとつに、地理的問題があります。今回は、この地理的条件がどのように復興に影響しているのかを考えてみましょう。

能登半島の地理的孤立

能登半島は北陸地方の中でも地理的に孤立した地域です。珠洲市は半島の最先端に位置し、北陸の主要都市である金沢市や富山市から約150kmも離れています。この距離が、支援物資の輸送や復旧対応を遅らせる大きな原因となっています。
大都市や中堅都市が近隣にないため、行政サービスや医療施設などの都市機能を補完する支援を受けにくい状態です。この結果、被災者への迅速な支援や避難所運営が難しくなり、復興活動全体が遅れる要因となっています。

他地域との比較:復興速度に影響する「距離」と「都市規模」

阪神・淡路大震災(1995年)

被災地域: 神戸市、西宮市、芦屋市など
近隣の大都市: 大阪市(約30km、人口約270万人)
近隣の中堅都市: 姫路市(約50km、人口約53万人)
特徴: 大阪市や姫路市から迅速な支援が行われ、大規模な物流網と人員派遣体制が整いました。

東日本大震災(2011年)

被災地域: 宮城県沿岸部(石巻市など)、岩手県沿岸部(陸前高田市など)、福島県沿岸部(南相馬市など)
近隣の大都市: 仙台市(石巻市から約60km、人口約108万人)
近隣の中堅都市: 盛岡市(陸前高田市から約150km、人口約29万人)、郡山市(南相馬市から約80km、人口約33万人)
特徴: 津波による広範囲な被害と原発事故が発生しましたが、仙台市を中心とした支援拠点が迅速に機能しました。

熊本地震(2016年)

被災地域: 熊本県益城町、熊本市など
近隣の大都市: 福岡市(熊本市から約100km、人口約160万人)
近隣の中堅都市: 大分市(益城町から約120km、人口約47万人)、佐賀市(熊本市から約110km、人口約23万人)
特徴: 熊本市(74万人)自体が被災地でありながらも支援拠点として機能し、大都市福岡や周辺中堅都市からの支援がスムーズに行われました。

能登半島地震(2023年)

被災地域: 石川県珠洲市、輪島市など
近隣の大都市: 金沢市(珠洲市から約150km、人口約46万人)
近隣の中堅都市: 七尾市(珠洲市から約90km、人口約5万人)
特徴: 過疎化と高齢化が進む地域であり、大規模な支援体制構築には時間を要しました。七尾市は能登半島内で重要な拠点となっています。

珠洲市は「山頂」ならば、七尾市は「ベースキャンプ」

珠洲市は能登半島の先端に位置し、その孤立性はまるで「山頂」のようです。高い山に登るには途中にベースキャンプを設ける必要があります。同様に、七尾市は能登半島全体の「ベースキャンプ」として機能しています。この七尾から珠洲までさらに1時間半かかる現実があります。
さらに、そのベースキャンプとなるべき七尾市和倉温泉も今回の地震で被災してしまい、その役割を十分果たせない状況も課題となっています。ツアー参加者の多くは、珠洲市まで実際に足を運ぶことで、その「遠さ」を肌で感じることになります。

「行政基盤」としての課題

珠洲市や輪島市は「市」という名称を持ちながらも、その行政基盤や人口規模は町村レベルに近い状況です。
珠洲市の住民票上の人口は1万人少々ですが、実質的には7,000~8,000人程度と言われています。
高齢化率は50%を超え、「超高齢社会」の典型例です。
これには地理的孤立や過疎化、高齢化、財政基盤の脆弱性といった複合的な要因が絡んでおり、「市だから」という前提で計画された支援体制では対応しきれない現実があります。

復興計画は住民とともに丁寧に進めるべき

能登地域では震災前から過疎化と高齢化による地域活力低下が課題でした。地震によってこれらの問題がさらに顕在化し、多くの住民が生活再建やコミュニティ維持に苦労しています。
復興を急ぎすぎることで住民ニーズや地域特性を無視するリスクがあります。そのため、一歩一歩丁寧に住民とともに計画を進めることこそが持続可能な地域づくりにつながります。

雪に包まれる見附島仮設住宅

日本全体への示唆:能登半島は未来へのヒント

能登半島地震からの復興は、日本全体で進む過疎化や高齢化問題を反映した「縮図」と言えます。
この取り組みは単なる地方課題ではなく、日本全体で共有すべき未来へのヒントになるでしょう。私たち一人ひとりがこの現実を理解し、ともに考えることが求められていると思います。

リブート珠洲 篠原和彦

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